レモン
アメリカでは、家に実の成る木が植わっているだけで、家の値段が上がるそうだ。
そのせいだろうか、我が家にも林檎の木が2本、オレンジとレモンの木が一本ずつ植わっている。
2月に渡米して初めて迎えた春に、生まれて初めてオレンジとレモンの花を見た。白くて分厚い花弁の花からは、言いようもないほどの甘酸っぱい香りが漂っていた。
オレンジやレモンは実を結びやすいのだろうか、花が咲きおわると、次々と面白いように小さい実が、魔法にかけられたように大きくなる。庭には、食べきれない果実がゴロゴロしている。主人に聞くと、会社にもレモンをオフィスに持ち込んで、自由に持って帰ってくれとe−mailでアナウンスする人がいるそうだ。どこでも考えることは一緒だと、主人と顔を見合わせて笑ってしまった。
その週末、車で出かけることになった。
道端に、机が出ており、籠一杯!! のレモンが堂々と置かれていた。子供が書いたらしいクレヨンのヘタッピーな字で、LEMONとある。金髪の少年二人、兄弟だろうか、車に向かって手を振っている。大声を出して呼び込みをしているらしい。庭のレモンで一攫千金を夢見ているのだろう。
結局、私はその少年のレモンは買わなかった。そう、我が家にも腐るほどレモンがあるから。レモネードにしたほうが売れるんじゃない! なんて耳打ちしてあげたかった。
でも、その少年の姿を見て、私のほうが何かを分けてもらったような気がする。
日本なら、そんなアルバイトは、親が恥ずかしいと止めさせるかもしれない。でも、彼等の父親は、家のベランダから微笑んで自分の息子達を見守っていた。
少年達は、いったい何セント、儲けただろうか。でも、彼等の中には、お金では買えない何かが、きっと残るはずだ。
ここは、努力すれば何でも手に入れられる国かもしれない、努力すれば。
1996 5月
もどる