11月に入ってこちらでは雨が降るようになった。春から夏にかけて半年間はずっと射るような日差しが降り注ぎ、雨は一滴も降らない。しかし秋と冬には恵みの雨が降り注ぐ。半年間からからの大地にしがみついて生きのびてきた植物たちにとっては、待ちかねた嬉しい季節に違いない。しかしこの季節は、インフルエンザの季節とも重なっている。
ここアメリカでも、インフルエンザは毎年流行り、年間に2万人もの人が命を落としている。インフルエンザに罹ると、どうしても体力が落ちて別の病気を併発しやすい。お年寄りや小さい子供には予防接種を受けるよう、新聞に記事として載ることもある。
さて、今年のインフルエンザの予防接種に、少し変化が見られた。
今まで、インフルエンザの予防接種を、企業内で、希望者に対して低価格で行っているところがあった。企業としては、従業員にインフルエンザで休まれると、それだけ生産性が下がってしまう。また、従業員のほうもかかりつけの医師で予防接種を受けると、会社をその時間休まなければならないし、医師に対してインフルエンザの注射と、診察に対する費用を支払わなければならない。それが企業に医師が出向いて出張接種をしてくれるのだから、企業のほうも、従業員のほうも、都合が良く、このシステムは定着していた。
そして今年、このシステムのドラッグストア版が登場したのだ。会社が休みの土曜日、日曜日に、インフルエンザの予防接種の注射をドラッグストアで行おうというのだ。
アメリカのドラッグストアは、薬も売っているし、また、医師の処方箋を持っていけばその薬を買うこともできる。化粧品やカード、缶詰やシリアルなどの食料品も扱っている。写真の現像コーナーもある。日本でいう薬局とは、また違う。(大きめの薬局+雑貨屋+簡単なスーパー=ドラッグストア)といったところだ。そこに、医師が出向いて、インフルエンザの予防接種をするのだ。予防接種をするドラッグストアは、その店のチラシに大きく接種日の日時を印刷したものを、新聞の折り込み広告に入れていた。
ドラッグストアでのインフルエンザの接種は、大人一人あたり20ドルかかる。ウィークデーは仕事で忙しくて接種に行けなかった人にとっては、朗報だ。
そしてもう一つ、驚くような接種が行われている。ドライブスルーで、インフルエンザの予防接種行っているのだ。
今回ドライブスルーの接種が行われたのは、サンマテオにあるエキスポセンターの駐車場だった。もちろん注射を打つ医師がその駐車場で待機している。そこに自動車で接種を受けにいく。接種を受ける人は自動車から降りず、自動車の窓から腕を出す。突き出した腕に、ぶすりと注射するというシステムなのだ。アメリカ人にとって、自分の自動車の社内というのは、家のリビングルームの続きだという感覚があると私は思っている。ドライブスルーの接種に来た人の中には、頭にカーラーを巻いたままの人もいた。ドラッグストアに歩いてインフルエンザの予防接種を受けにいくよりも、もっと楽でお手軽な方法だ。
ドライブスルー発祥の国というだけに、ハンバーガーや銀行以外に、接種にまでドライブスルーを使うのかと正直言って驚いた。医療行為とドライブスルーをくっつけるなんて、日本人にはできない発想だ。しかし、どんな形の接種であれ、インフルエンザで入院する人数が減り、悲しい思いをする家族が少なくなるのなら、それもいいのではないか。
来年はどんな広告がドラッグストアに出るだろうか。ドライブスルーの接種も、続けられるだろうか。鬼が笑うようなことを考えながら、アメリカ人の発想の柔軟さに、頭が下がる思いがした。
2002/11/29
後日談
このエッセイを書いた数日後に、インフルエンザにかかってしまいました。
みなさんはインフルエンザにかからないよう、どうかご自愛くださいませね。