日本でも12月になるとまずはクリスマスの飾りつけが町を飾る。そうして、クリスマスが終わると同時にお正月の飾りつけに歌舞伎の引き抜きのように早変わりする。私は、日本にいる頃には、このクリスマスからの見事な飾り付けの変身ぶりを見るのが好きだった。
しかし、アメリカではクリスマスの飾りつけは新年もそのままのことが多い。だから、どちらかというと、12月に入ってがらりと変わる女性の服装を見るほうを楽しみにしている。
それまで、自分の好きな色を着ていた女性陣が、老いも若きも赤と緑を着始めるのだ。
ティーンエイジャーだと、自分のいつもの服にちょっとだけ赤や緑を入れてクリスマスの雰囲気を出している。たとえば、ジージャンの下に真っ赤なセーターを着ていたり、雪の結晶を編みこんだマフラーを巻いたりしている。ちょっぴり赤をプラスしてお洒落をしている子が多いように思う。
もう少し年齢が高くなると、胸元にリースやクリスマスツリー、そしてサンタが編みこまれたセーターやカーディガンを着ている女性がぐんと増える。30代以上をターゲットにしているアパレルのメーカーは、そういうった種類の編みこみセーターを毎年クリスマス前になるとドンと店に置く。昔の少女に戻って、女性たちはこのようなセーターやカーディガンに手を伸ばすのだと思う。なにせ、編みこまれているモチーフが究極に可愛いのだ。永遠の少女たちは、60歳だろうが、70歳だろうが、自分の着たいものを着る。どれだけ鮮やかな色だろうと、どれだけ可愛いデザインでもだ。ほんの1ヶ月だけの旬のセーターだ。ショッピングモールに行っても、学校へ行っても、図書館でも、クリスマスモチーフのセーターを着た女性にはいたるところで出会える。犬が棒にあたるよりも、ずっと出会う確率は高い。
こういう編みこみのセーターを着るのが嫌いな人は、黒や白、赤や緑など一色のセーターに、クリスマスのモチーフのピアスやブローチをする。私は、個人的にはこの着こなしが一番好きで、燻し銀にガーネットの実がついた柊のブローチをセーターに止めつけることが多い。モチーフの入ったセーターはやはり12月26日以降には着れないので、無地のセーターに行事にあったアクセサリーをつけるほうが、経済的だ。ただし、アクセサリーがセーター一枚よりも安いことが条件だが。
無難に、黒のセーターにジーンズ、そして季節ごとのアクセサリーという人もいるが、緑のセーターに赤のパンツを穿き、真っ赤なベルがついたピアスという出で立ちの人もいる。全身、クリスマスカラーでコーディネートするのだ。こういう組み合わせで歩く人を日本で見つけるのは難しいだろうが、アメリカではたくさんいる。
誰が何と言おうと、この時期、一番素敵だなと見とれてしまうのは、朱色のロングコートの襟元に金色のリースのブローチをして優雅にクリスマスショッピングをしている、金髪から色が抜けたような御髪をしたおばあちゃまだ。こちらのおばあちゃまは、週に一回、マニキュアのサロンに通っている人も少なくない。1回20ドルでマニキュアをしてもらえるので、昼間のマニキュアのサロンはおばあちゃまたちが多い。コートにお似合いの朱赤のマニキュアをして、同じ色合いのルージュまでひいている。もう、「私は参りましたと」いう視線でそのおばあちゃまを見てしまう。
私の伴侶に言わせれば、みんながみんな赤と緑を着ていて面白味がないというが、みんながみんな赤と緑を着ているからこそ、お洒落の上手な人が際立っていて、とっても見ていて楽しいのだ。
日本では、ある程度年齢を重ねた方が真っ赤なコートを着ると、どんなに似合っていたとしても、周りから「年甲斐もなく赤いコートなんか着て」と揶揄されるそうだ。私の母も、そういう経験がある。思い悩んだ母は、その赤いコートを私に上げてしまおうかとまで考えていた。でも、そのコートはとても母に似合っていたので、母から巻き上げずに至っている。
赤は、人を元気にさせてくれる色だ。石炭のように暗い冬の町に、赤いコートを着て颯爽と歩くなんて素敵だと思う。似合っていたら、10歳だろうと、70歳だろうと、赤を着ていてもいいのではないか。人のファッションを見ていいと思ったら、黙ってそれを盗む。それでお洒落を楽しんでいけばいいと思う。
ファッションのルールに、年齢制限なんてないんだから。
2002/12