学年末を前にして、カメラを持って学校に子供を迎えに行く母親が多くなった。夏休みの間に家を変わったり、あるいはアメリカから自分の祖国に帰る家族が多いからだ。昨日は、息子のクラスメイトのアヴィーブのママが、さかんにシャッターを切っていた。
イズラエルから来る家族は、2年間滞在して帰るケースがとても多い。アヴィーブ一家も、この夏で丸2年をアメリカで過ごしたと言っていた。
「アメリカは本当にいいわよねぇ。」
しみじみと、アヴィーブのママは言う。
「いろんな国の人が仲良くしていて、お互いの宗教や風習を尊重しあっているって、とても素晴らしいわよね。特に、このベイエリアは素晴らしいわ。」
私も全く同感で、大きく頷いた。
たとえ同じアメリカでも、東海岸のほうに行くと、今でも冷たい視線を感じることがあるからだ。
「イズラエルのどの地方に帰るの?」
と質問すると、少し彼女の顔が暗くなった。この前、女子大生の自爆テロがあった、アフラだと彼女は答えた。
「本当は、アメリカに残りたいのよ。」
イズラエルから来た他の母親から、公園に子供を連れて行くときには銃を持っていくと聞いたこともある。イギリスの三枚舌から生まれたイズラエルという国は、3つの宗教の聖地を抱えたまま、パレスチナとの紛争を終わらせることがいったいできるのだろうか。
「アラブ人は、問題を解決しようとは思っていないの。いつも、逃げ腰よ。」アヴィーブのママは強く言った。
「私たち一族は、ローマ軍がエルサレムを破壊したときに、イラクに移ったのよ。それから2千年間、イラクで暮らしてきたわ。そして、イズラエルができて、イラクにあった土地も、家も、お金も、全部残して、イズラエルに帰ったのよ。難民と同じよ。何も持っていけなかったのよ。アラブには、たくさんの土地があるわ。アラブ人は、たくさんある土地に移ればいいのよ。ただ、それだけじゃないの。」
アヴィーブのママの口調は抑えられていたが、目には、強い意思が感じられた。
「でも、あなたがイズラエルに帰ってきたときには、イズラエルという国が建国するということで帰ったんでしょ? パレスチナの人が、他のイスラムの国に出たとしても、自分たちの国は建国できないじゃない。ずっと、難民のままじゃない?」
彼女は、私の目から視線を逸らすと、空を見つめながらこう言った。
「私たちは、イラクから難民同様に出てきたわ。だから、今度は彼らが出て行く番よ。」
私の息子とアヴィーブたちは、会話をしている私たちの目の前で、今アメリカで大流行のGガンダムごっこをやっている。私としては、こういう戦いごっこは男の子が大好きな遊びなので、危険でないかぎりやらせたいようにさせておく。でも、アヴィーブのママは、いつも止めに入る。
「暴力はいけません!!」
イズラエルには兵役があり、男の子も女の子も、服役しなければならない。目の前で遊んでいるアヴィーブも、いつかは兵役に服さなければならないのか。そして、上司の命令であれば、パレスチナの人々に銃口を向けることもあるのだろうか。
「どうしたら、この問題を解決できるのかしら。方法があったら、私、知りたいわ。」
さっきとは打って変わって、囁くような声で、アヴィーブのママは言った。