森に分け入る。
聞こえるのは落ち葉と小枝を踏む音、三人の白い息の音。


三人の共通点は、ただ三つ。
女性であること、母親であること、アメリカに現在住んでいること。

無心に森の奥を目指す。



このハイクを思いついたのは、写真向かって左の女性、アリソンだった。
学生時代はプロのヴァイオリニストを目指したが手を痛め断念したという。
いつでも問題を提起して、討論の好きな女性だ。

右側の女性はイギリス人のケイト。数年前、12家族でイギリスからアメリカに渡ってきた。
もうすぐでグリーンカードが取れると言っている。
彼女の英語を聞いていると、いつも慣れているアメリカ人の英語と全く違うことに気づく。
イギリスで話されていた英語は、数回によるフランスの統治により、かなりフランス語に影響されていると聞いたことがある。
その事実を、彼女の発音は物語っているように感じる。

議論好きのアリソンにつられて、話題は尽きるところを知らない。
教育の問題から、EU、果ては今の日本の経済問題まで、多岐にわたる。

英語が苦手な私は、頭がショートしそうだった。

でも、彼女たちは私が意見を言うのを待ってくれる。
つたない英語でも、私の持っている意見を聞きたがってくれている。
10年後というエッセイで以前書いた意見を、話す。
ゆっくりでいい。相手が意味理解できなければ、わからないと素直に言ってくれる。あるいは、「マサヨの言っていることはこういうことではないの?」と、言葉を変えて助け舟を出してくれる。

彼女たちは私の話に、ときに頷き、ときに反論する。
そして私も、また、自分の意見を話し始める。

上り坂で、話す息が上がる。
足を止める。
眼下に、サンフランシスコ湾が見えている。
かなり山の上まで上がってきたようだ。

アリソンが言う。
「今の日本の状態は、80年代のアメリカとそっくりよね。でも、日本は、そのことに気づいていても、事実を見ようとしていない。
日本は、他の国を見ようとはしていない。
他の国の失敗や成功を見れば、自分たちが何をすべきか、わかるんじゃないかしら。
たとえ、文化や習慣が違っても、学ぶところはあると思うの。」
私は、大きく頷いた。

森には、命が生まれている。
木々が芽吹き、若い鹿や鳥にも出会う。
そしてその若い芽の下には、朽ちた古木が転がっている。



古いものを無駄にしてはならない。
無駄なものなど、この世にはないのだから。
過ぎ去ったことから学び取ることもできるのだから。

そう思いながら、あるがままの私たちを優しく包んでくれた森に感謝しながら、そこを後にした。


1998/11/16



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