日本でも通信販売は、盛んだ。
あの、雑誌のようなカタログを見るだけで、買いもしないのにわくわくできる。それに、雑誌のようにお金を払って購入するわけでもなく、ある日郵便受けに入っている。主婦にとって通販のカタログを見るのは、とても経済的で、それでいて、とっても楽しいものなのだ。通販発祥の地、アメリカでも、カタログはバンバン送られてくる。クレジットカードでどこかの店で買い物をすると、その数週間後には、その店と同じ客層を狙った店のカタログが届く。どこか裏でデータが売られているんだなと舌打ちしながら、やはり、ぱらぱらとページをめくる。
アメリカの通販のカタログは、とても素敵なのだ。ため息が出るほどのコーディネートがされている。
そして、ホリディシーズンに突入した今、もう、がんがんと購買意欲を燃え立たせるように、カタログは挑発してくるのだ。アメリカでは色んな宗教を信じている人が多いためか、クリスマスシーズンとはいわずに、ホリディシーズンなどと言う。クリスマスもあれば、ユダヤ教を信じる人はハヌカ、黒人の人はクワンザを祝う。でも、やはり、メインはクリスマスであることは否定できない。キリスト教を信じる人が多数だということもあるだろうが、やはり、赤と緑のコントラストは鮮やかで見栄えがする。どのカタログも、クリスマスを前面に押し出している。オーナメント、クリスマス用のお皿、クリスマス用のシーツ、もう、なんでもかんでも、クリスマスなのだ。
クリスマスは通常は核家族単位で祝う。
だから、シングルの人は、必然的に恋人と祝うことになるんだろう。さて、カタログの中に、いつも私が楽しみにしているものがある。その名は、「Victoria's Secret」。つまり、ヴィクトリアの秘密。このカタログは、同名のランジェリーショップのカタログなのだ。このカタログときたら、ちょっと困っちゃうぐらい、お色気むんむんのポーズでの写真が怒涛のごとく載っている。「うっふん!(はーと)」なんて声が聞こえてきそうなほどなのだ。モデルも、今、アメリカで売れているモデルをたくさん使っている。
もちろん、このカタログは、女性がランジェリーをオーダーするためのカタログだ。この「Victoria's Secret」のクリスマスヴァージョンのカタログが届いた。
いつものお色気ポーズで始まるということぐらいわかっていたはずなのだが、今回は目が点になり、思わずカタログを落としそうになった。
いきなりのポーズは、黒いブラとタンガ(昔日本で一時Tバックといわれて流行ったショーツ)に、ガーターストッキング(太もものところで止まるストッキング)だけという露な姿のモデルさんが、ソファーに倒れこむようにしてこちらを挑発するような目で見ている。頭をソファーの肘当てに乗せ、体はソファーの座面に預け、すっくりと伸びた足は、もう片方の肘当てから天を目指すように上げられている。
「ウワヮォー」などと、声まで出してしまった。旦那さんにも、手招きして見てもらう。
反応は、顔がみるみる紅潮してきて、なんだか私が悪いことをしてしまったような気分になった。
うーん、アメリカ人の女性は、こうやって彼氏をクリスマスに挑発するのだろうか。このお店だが、少し大きめのショッピングモールだと、必ず出店している。
ちょっと落ち着いた雰囲気で、それはまた、素敵なのだ。
女性は買い物が好きだ。私の旦那さんもそれをよく知ってくれている。だから、たまにそうやって家族でショッピングモールに出かけると、「君、見てきたら?」なんて聞いてくれる。しかし、聞くだけ。彼は、絶対に、その店の中には入ろうとはしないのだ。落とした照明に浮かび上がる美しいランジェリーを眺めながら、店に入る。絨毯はふかふかだし、ゴージャスな雰囲気の中で、じっくりと見て回る。
アメリカ人の場合、恋人どうしや夫婦で買い物をしているのなら、こういったランジェリーショップに一緒に入ってくる。そして、彼氏や夫らしき男性が、「ね、これなんかいいんじゃない?」などと、手にとって彼女に試着するように勧めているのだ。
今回私が店で物色していたときにも、カップルがどれにするかを楽しそうに決めていた。
羨ましいと思い、一度旦那さんを誘ってみたが、がんとして断られた。
日本人の男性は、やっぱり、一緒に選ぶなんて、嫌なのだろうか。それと対照的なのは、たった一人で来ている女性。
真っ黒のメリーウィドウ(ブラとウエストにボーンの入ったコルセットが一体になったもの)にガータ(先ほどのガータストッキングを吊るためのランジェリー)、タンガを選んでいた。とっても、セクシーなものばかり手に持っている。気合が入っているのが、殺気でわかる。これは、きっとクリスマス用に調達するのだなと、真剣な横顔を見ながら通り過ぎる。すると目の前には、75歳ぐらいの2人連れのおばあちゃまがいた。
「ね、これ、かわいいわよね」
「ええ、ええ」
「彼、喜ぶかしら」
「ふふふ、ええ、ええ」
などと会話している。
何気なく手元を見ると、胸にふわふわのオーストリッチがくっついているランジェリーをお持ちだった。
「あら、これ、お揃いよ!!」と、よたよた駆け出すその先には、同じオーストリッチがくっついたヒールの高いスリッパが置いてあった。そう、女性はいくつになっても、やっぱり素敵なランジェリーが大好きなのだ。
私の戦利品はというと、今回は空振りだった。
やはり体が小さいと、サイズがお店になかったりする。
店員さんにもさんざ探してもらったが、今回出向いたお店には置いていなかった。
「カタログでオーダーなさったほうがいいですよ」と、店員さんに言われてしまった。カタログなら家で買い物ができるし、自分に合ったランジェリーがわかっていれば、わざわざお店にまで出向く必要がないので時間の節約にもなる。
でも、それではやはり満足できないのが女性なんだと思う。
カタログも楽しいが、やはり実物を手にとって試着して買うのは、やはり楽しい。
買うつもりの無いものでも、自分に似合うかしらと、ちょっと冒険して試着することもできる。わくわくしてしまう。
いつもと違う空間で、自分のために時間を使って買い物をするなんて、やはり、最高の贅沢なのだ。特に子育て中の女性にとっては、たった一人で買い物できるなんて、本当に夢のような時間だろう。今回の遠征では戦利品はなかったが、カタログでのオーダーの前準備ということにしておこうと心に言い聞かせ、お店を出た。
「ああ、サイズがないなんて、残念だわ」
ため息交じりに言う私に、旦那さんはこう言った。
「でもね、君、何を着てても、中身は一緒だよ」あらら、言いましたわね、旦那さん。
もう、まったく、女心がわかってないんだから!!
1998/11/25