消防車は何色?
日本に住んでいる子供に、「消防車は何色?」と尋ねたら、いっせいに、「赤」という答えが返ってくるだろう。
アメリカに住んでいる子供に同じ質問をすれば、色んな答えが返ってくる。「赤」、「白」、「黄色」、「ライムグリーン」。でも、みんな本当にある消防車の色、全部正解なのだ。
アメリカに来た当座、驚いたのは、警察や消防署の自動車の色やデザインが、管轄によって全く違ったことだった。
アメリカ人にそのことを尋ねれば、「みんな違うのが当たり前でしょ、みんな同じだったら変だわ」、という答えが返ってきた。
子供といっしょに行った消防署の見学でも、なぜその消防署の消防自動車が白いのかを聞いた。夜、よく認識できるからという理由で、消防署の上部が決めたと話してくれた。それぞれの管轄しているボスに権限が一任されているらしい。だから、町ではさまざまな色の消防自動車に出会うことになるのだ。
アメリカという国は、ごった煮の国だ。
世界中から人が集まって、一つの国を作っている。
田舎ならいざしらず、私の住んでいる地域など、様々な国からの人が集まってきている。公園やショッピングモールでは、聞いたことのないような言葉を耳にする。
ニューヨークで生まれ育った友達が、シリコンヴァレイのほうが、よほどニューヨークよりも人種の坩堝だと言っていた。
そんな人々が集まった場所では、日本人の持つ一般常識など通用しない。
日本人が持っているような一般常識を、アメリカ人が持ち合わせているとはあまり考えないほうがいいだろう。
先日、電話が鳴った。
電話に出ると、Mr. FukuiかMrs. Fukuiはいないかと聞かれた。私ですがと答えたら、いきなり、「幾つですか?」と聞かれたのだ。
受話器を持ったまま、唖然としてしまった。
電話の向こう側の人間は、自分がどこの誰かまだ、名乗ってすらいないのだ。それなのに、いきなり、こんなプライベートな質問を投げてよこすのだから。
それに、女性に歳を聞くのは、とっても失礼なことだと思う。
はっきり言って、頭にきた。
自分が歳をとってきたことは、認めるし、答えなければならないときには、堂々と、正直に年齢を言うつもりだ。
しかし、見ず知らずの人間に、それも、自分の名前すら名乗っていない人間に、英語で聞かれたからといって、はいはいと歳を聞かれて答えるほど、まだ、耄碌してはいない。
「そんなプライベートな質問には、答えたくありません」
そう言うと、相手はやっと、自分が電話会社のものだと名乗った。
「あまりにも、お声がお若いので。今、どこの電話会社を使われていますか? 今、当社をお選びいただきますと……」
馬鹿野郎と心で叫びながら、その人の一方的な会話に割り込んだ。
「今の長距離電話会社に満足してますから、バイバイ」
ガチャンと、電話を切った。
この調子だから、アメリカで暮らしていると、癇にさわることに出くわすのは、日本より多い。電話や店でも、度々そういうことがある。あるいは家に来てもらう配達や修理屋が時間にルーズで、こちらが一日棒にふり、イライラしてしまうことも少なくない。
こんなとき、文句を言えなければ文句を言えないほうが泣き寝入ることになる。アメリカは声の大きくて文句を言える人が勝つ。沈黙よりも雄弁のほうが金なのかもしれない。
こんなアメリカという国で知り合った人たちの中には、一度会っただけで二度とお茶も飲まない人もいる。
彼らは、日本人と違って初めから家に呼んだりして付き合い始める。それがきっかけだと思っている。もしそれで、良い友人になりそうなら、もっと交流を深めていく。家族ぐるみで付き合うようになっていく。しかし、きっかけの段階からどうも噛み合わないと感じてしまうこともある。そのときは、交流を止めるというやり方を取るのだそうだ。
しかし、英語のできない私にも、幸運にも少し親しいアメリカ人の友人ができた。週に一度、7件の家族で集まって、夕食を共に摂るようになり、付き合いを深めていけた。
そこに集まる友達は、人種も違う、育った環境も、価値観も、一人一人全く違う。
その行動や考えに対して、驚いたこともあるし、同意できないと思うこともある。
でも、それは、彼女たちの価値観なのだ。
私が正しいとか、彼女たちが間違っているといったようなことは、ここでは通用しない。みんな違うのが当たり前なのだ。
確かに、戸惑うことも多かった。
でも、じっくりと付き合っていくうちに、心の底の温かいものは同じだということがわかった。私がSOSを出したら、何をおいても助けてくれたのは、日本人の友達ではなく、アメリカ人の友達だった。
言葉が違っても、笑い方と、涙は同じだということがわかった。
それが、一番大切なこと。
それを感じることができてはじめて、本当の友達になれるのだと思う。何が違っていても。同じ言葉を話せても、話せなくても。
1999/02/08
このエッセイはInfo Ryomaのコラムに書き下ろしたものです
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