大雑把な国
アメリカでは、お金のことをgreenだとか、buckとか言う。
お札が緑色っぽい印刷なのでgreenと言われるのだろう。
両方とも、日常の会話に出てくる。若いアルバイトのお兄ちゃんだと、1ドルなどと言わずに"one buck"などという。
このお札、1ドル札から100ドル札まで、全部サイズが同じだ。
また、色数の少ない印刷のせいか、子供銀行券のように見えてしまう。
日本のお札に比べると、有りがた味がない。
さて、日本の銀行のキャッシュディスペンサーでお金を引き出したとする。
一万円札1枚のかわりに、5千円札1枚しか出てこなかったということは、ほとんど無いと思う。それは、お札の金額によってお札の大きさが違うことも、随分関係しているように思うが、やはり日本の銀行は、きっちりしているのではないだろうか。それにもしも何かあれば、係りの人が飛んできて、必ず世話を焼いてくれる。
有りがたいことである。
ここ、アメリカでは、銀行でもこんなことがある。
主人の友人が銀行のキャッシュディスペンサーからお金を下ろし、家で金額をチェックした。
20ドル札の中に、なんと、5ドル札が紛れ込んでいた。
15ドル損したその友人は、明細を片手に慌てて銀行へ掛けこんだのだが、取り合ってもらえなかったのだ。
このことがあってから、主人はお金を下ろすと、必ずすぐにお札を確かめる。
ある日、自動車に乗ったまま引き落とせるドライブスルーでお金を出し、チェックしていたとき、彼はにたりと笑った。
「どうしたの?」と聞く私の前に、彼は50ドル札をひらひらさせた。
我が家の場合は、30ドル、得してしまったのだ。
誰かが泣いて、誰かが笑う。
まるで、スロットマシーンのようなキャッシュディスペンサーだ。
先日、こんな記事を新聞で目にした。
アメリカでは、年々、夏休みに子供だけで飛行機に乗って移動する件数が増えてきている。宿題無しの三ヶ月近い夏休みの一時期、祖父母の家で子供たちが過ごす件数が増えているというのだ。
アメリカは、広い。直通などと書かれている便でも、ハブとなる空港に一度降り立つことのほうが多い。あるいは、乗り換えをしなければ到着地につけない場合もある。
子供だけで移動する件数が増えれば増えるほど、乗り換え空港で起こるトラブルが増えているのだ。
ある16歳と11歳の兄弟は、乗り換え空港に降り立った。
父親は、彼等が乗り換えの空港で、ちゃんとゲートまで連れていってくれるようにチケットを買う際にシャペロン(お世話係り)を頼み、それに60ドル支払っていたのだが、シャペロンは同乗もしなかったし、乗り継ぎのゲートまで誰も案内しなかった。
二人の少年は、乗り換えの空港でいったん飛行機を降り、食べ物を買ってからまた同じ飛行機にもどり、同じ座席に座っていたのだという。
さて、二人が座っていた席のチケットを確保していた人からクレームが上がり、また少年たちは空いた席に移動する。また、クレームが上がる。こんなことを2回繰り返した後、乗務員はチケットの確認を少年たちに求めた。その時点で、彼等が乗るはずだった乗り継ぎの飛行機は離陸してしまった後だったという。
あるいは、9歳の少年が乗務員に連れられて、乗り換えゲートまで連れて来られた。しかし、受け渡しもなくそのまま乗務員は立ち去り、少年は乗り継ぎの飛行機への搭乗もせずに置き去りにされたまま、ゲートで4時間待ったのだ。
少年はこれはおかしいと感じ、プリペイドカードで自宅に電話をかけた。そこで始めて、両親は自分の息子がトラブルに巻き込まれたと知ったのだった。
こんな酷いことって、あっていいのかしらと英会話の先生と話しをした。
彼女は苦笑しながらこう言った。
「アメリカなら、こういったこと、日常茶飯事よ」
こういった酷いことが起こるから、人はその怒りを訴訟へと持ちこむのだろうか。
アメリカでは、何かあれば、すぐに裁判所へ訴える。
濡れた猫を電子レンジにかけたおばあさんが、家電メーカ相手の裁判で勝ったのも、アメリカならではの話だろう。
また、大雑把なアメリカに、話しを戻そう。
たとえば、こんな実話がある。
従業員のレクリエーションのために、ある企業がピクニックエリアを借りきった。それなりのアトラクションも用意した。従業員は300人。家族も呼ぶので、1500人分の食事や飲み物が手配された。
しかし、ここでまた、アクシデントがおきた。
人事部が、従業員への招待状発送を忘れたのだ。
ピクニックは、前日にキャンセルとなり、企業が支払ったお金は、一銭も戻っては来なかったのだという。
お役所の仕事も遅いし、ミスが多い。
名前の間違い、住所の間違いはざらである。
駐在員の中には、運転免許証を取得しても、ぺらぺらの紙でできた一時的な免許証が郵送されてきただけで、辞令が下りて帰国するまでの三年間、正式な免許証はついに送られてこなかったという話しも聞く。
この国では、なんだかんだとプッシュしないと、全く動いてくれなかったり、忘れ去られてしまう。
日本のお役所の仕事も早いとは言いがたいが、全く忘れ去られるということは、私は今まで経験したことはない。
日本人は細かいというけれど、私にしては、どうもアメリカ人がとても大雑把に見えてしかたがない。
アメリカの企業でも、日本の木目細かな部分を見習えばいいと思うのだが。
もしかしたら、細かいところに気がつかないほど、大雑把なのかもしれない。
みんな、不便とは思わないのだろうか、クレームも出さないのだろうかと、思ってしまう。
それでも、どうなりこうなり動いているアメリカは、何とも不思議な国なのである。
99/07/12
ドルのことをbuckではなくboxと呼ぶと勘違いしていた私の間違いを指摘してくれたゆの字さん、ありがとう。
エッセイでは、修正した形を載せますね。
このエッセイはInfo Ryomaのコラムに書き下ろしたものです
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