18歳の歌詞





雪見さんのところで、オフコースの文集が出来あがった。
発表当日読みにうかがったのだが、感想を書けずにそのままにしていた。
これではいけないと思い、おめでとうございますのメールを打った。

私の人生にはオフコースとの接点がほとんどない。
ほんの少しの接点はあったのだが。
その接点を雪見さんへのお祝いの言葉に添えた。

その接点とは、こんなものだった。

ある人が、オフコースの歌詞に自分の気持ちを託して私に「告白」をした。
しかし、そのとき、私は激怒したのだ。
人が歌う真剣な歌を使って、自分の気持ちを代弁しようという姿勢が許せなかった。
その言葉たちは歌詞を書いた人の気持ちであり、決してその人の心からの言葉とは違う。それも、激怒する一つの理由だった。

私も若かったのかなぁと思いながら、唐突に頭の中に歌が流れてきた。

昔、私が作った歌。

バンドのオリジナルとして、演奏の長く重い曲の間に入れようとして作ったものだ。
とても短く、でも親しみやすい感じにしたのを覚えている。
もう、書きとめた楽譜もないのに。
こうやって、何の脈絡もなしに出てくるのだから。面白いものである。



爪をといで待っててあげる
この浮気男
またどこかの可愛い女と
いちゃついているのかい

私はいつでも待ちぼうけ
でもまだ愛してるこの矛盾
カモメにねぐらがあったなんて
私初耳よ

とにかく

今夜は女の意地ってやつが
やけに張ってるの
早く帰ってきて愛しのダーリン
思い知らせてやるわ

爪をといで待っててあげる
爪をといで待っててあげる



歌ができたとき、友人に聞いてもらったら、この後、この女性はどうなるのかと聞かれた。

そう、彼女は待っている。
それはね、彼が必ず帰ってくるからって信じてるから。
何があったって、自分のもとに帰ってくるって、わかってるからね。
で、ホウキなんか持って、目を吊り上げて玄関なんかで待ってるわけだけど、彼が帰ってくると許しちゃうのよ。
そんな顔しないでよ、馬鹿な女って思ってるでしょう、でもね、それだけ愛しちゃってるんだと思うのよ。
怒っても、きっと彼は謝って、謝り倒して、彼女を抱きしめたりなんかする。
彼女は怒ってたのに、泣き始めちゃう、それほど好きなんだと思うのよ。
だからね、「待っててあげる」なのよ。もう、彼女許しちゃってるの。
でも、彼はまた、次の夜にはどっかの可愛い女のとこへ行っちゃう。
彼だって、彼女のこと好きじゃないわけじゃなくって、とっても好きで、罪悪感があるんだけど、他の女の子への気持ちもあるから、そっちへいっちゃうわけ。つまり、弱くて、どうしようもない男なのよね。
でも、お互いがお互いを求めてるから、それでも別れられないわけなのよ。
別れるときがあるかって?
それは、彼女が彼からの愛を感じ取れなくて、自分がいらない存在だと感じたとき、何も言わないで、ある日忽然と消えてしまうわけ。
彼が、当然目を吊り上げて待っててくれてるって思う玄関をあけたとき、もう、そこには何もないの。
彼女の姿も、彼女が使っていたシャンプーも、歯ブラシも、みんななくなっててね、彼は初めて自分が失ったってことに気が付くの。
でも、こういう男と、人生で係わりたくないわね。だって、顔が老けちゃいそうじゃない?

唖然とした友人の顔がそこにあった。

歌詞なんて、そんなものなのかもしれない。
彼氏いない暦自分の年齢と同じだった私が、想像だけでこれだけ書いてしまえるのだもの。
書いた裏には、それなりの二人の歴史も計算する。
そして、こうやって作れてしまうのだ。

だから、くれぐれも人の歌詞に自分の気持ちを託して贈らないように。
そこには、あなたとは違う想いが折りこまれているかもしれないから。
せめて告白ぐらいは、どんなに拙くても、自分の魂から出た言葉にしましょう。

しかし、たった18歳の、世間知らずの私がこんな歌詞をよく書いたものだといまさらながら感心してしまった。
わかっていたから書けたのか、わかっていなかったから書けたのか、それは本人にとっても謎だ。

さあて、ステージの女王気取りで、○○年ぶりに歌ってみますか!




2000/06/15



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