モーティーがやってきた





モーティー
年齢  10歳
性別  男性
種   たぶんグリズリーベアー
出身地 The Bank of West
住所  二週間に一回変わっているが、夏季はワンダの家で生息



その熊のぬいぐるみが銀行からのおまけとして先生のワンダにもらわれてきたのは、10年前のことだったという。
ワンダはそのぬいぐるみをどうしようかと考えた。銀行がくれたのは、学校の授業料をストックしておくための講座をその銀行に作ったため、学校の子供たちにということで渡されたらしい。
しかし、学校にぬいぐるみを置いたとしても、誰かがいつでも可愛がるというものでもないだろう。
そのうち埃をかぶってしまうのが関の山だ。
そこで、彼女はこの熊、モーティーを生徒の家にsleep overつまり、お泊りに行かせることを思いついたのだ。

モーティーには可愛らしい持ち物がある。
先生のナンシーが作った小物の数々だ。
彼はリュックを背負っている。その中には、夜眠るためのティディベアー柄のPJ(パジャマ)とblankey(ブランケット)と、それから日記が入っている。
リュックを背負った彼は、それぞれの家を泊まり歩き、それぞれの家族と会話する。
子供たちはその楽しい思い出を、日記に書き綴るのだ。

私も、その日記をぺらぺらとめくってみた。
もう、引っ越して学校にはいない子や、卒業してしまった子たちの名前や文字が見える。
モーティーと自転車に乗ったとか、モーティーが宿題を手伝ってくれたとか、はたまた、モーティーは私の家にいる女の子のティディベアーと恋に落ちてしまっただの、本当に楽しい物語がたくさん書かれている。

私の娘も、なかなか連続して何かの世話をすることができないタイプなのだが、それでもモーティーのパジャマを着せたり、脱がせたり、ブランケットをかけてやったりと、まめまめしく世話をしている。
モーティーに語りかけ、他の自分の持っているぬいぐるみに彼を紹介している。私の息子も、彼の大親友のティディベアーをモーティーに紹介していた。その後、仲良く遊びはじめたのだ。
娘が学校に行っている間、私がモーティーのベィビィシッターを申し付かっている。

モーティーが来てからは、会話の中心がモーティーになった。
彼はブランケット、(子供っぽく言うと、ブランキーなのだが)が無いと眠れない癖があるそうなのだ。
ブランケットがなくなると、「僕のブランキーはどこ? どこ?」と泣きながら探し回るらしい。
何人もの生徒が、それを見ているし、日記にも書いている。
だから、世話をする生徒は別の生徒から、「ブランキー、無くしちゃだめよ、モーティーが泣いちゃうから」と、言われるらしい。

なんて幸せなぬいぐるみなんだろう、お前は、そう思いながらモーティーを抱きしめた。

10年選手のぬいぐるみだ。
そう、もちろん、まっさらのようにはいかない。汚れている。
でも、抱きしめたとき、私はなんともいえない温かさを感じた。
10年間、彼はたくさんの愛情をいっぱい受けて、温かさを配って、各家庭を回っているように思うのだ。

娘は日記に何を書こうかと、うきうきしながらここのところ楽しい悩みを抱えている。
そして、他の人の日記を読むことで、彼がどれだけみんなに愛されてきているのかを感じながら、そう、それ以上のことを感じとっているに違いない。

もうすぐ、アメリカの現地校は今学年の終わりを迎える。
そして、娘のところから今度はワンダのもとへ行き、彼も2ヶ月半の休暇を楽しむことになっている。

おまけの、ぬいぐるみ。
それが、こんなに子供たちに愛されて、子供たちに夢を綴らせることだってできる。
彼の日記は、もう、数冊にも及ぶと聞いている。
それが10年も続いている。そして、モーティーがこの世に存在するかぎり、彼はたくさんの愛を受けながら、夢と微笑みを生徒やその家庭に贈りつづけてくれるのだ。

学校はただ学問を学ぶための場所じゃない。
こんな温かさが、学校にあったっていいんじゃないかなと感じるのだ。

私は、素直に素敵だと思うのだ。




2000/06/15



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