雨粒




学生のとき、選挙には行かないという友達がいました。自分が選挙に行ってたった一票を入れても、何も変わらないというのです。
私は、彼の意見に反対しました。一票入れなければ、自分の押す政党や候補者への一票は確実になくなる、時間はかかるかもしれないけれど、何かを変えたいのであれば小さなアクションでも起こさなければと。だって、何もしないでただ不満を言うのは簡単です。それに、「どうせ何も変えられないさ」と言うことは、自分から変えることを放棄してしまっていることだと思うからです。

今までの歴史は、名も無い人の小さな意思がほんのちょっとずつ川が流れを変えていくように、ほんの少しずつ変化しながら流れてきたように思えます。きっと、これからもそうでしょう。

昨夜、私は画面の前で興奮していました。
株式会社東京放送(TBS)の開局50周年プロジェクトとして、「地雷ZEROプロジェクト」が立ち上がったことを知りました。坂本龍一さんが音楽をプロデュースし、その模様や地雷に関する現状を番組として放送し、またプロデュースした音楽はCDとして発売されることになりました。
CDの売上金はアイルランドのNGOであるヘイロートラストなど地雷除去にあたっている団体に寄付されます。なんて素晴らしいことなんだと、嬉し涙がこみ上げてきました。

「天使になりたい」というサイトを作ってから、サイトに少し紹介している私の詩にメロディーをつけられないだろうかと、作曲家の方をわざわざ紹介してくださった方もおられます。
音楽は詩をメロディーにのせて、直接心に呼びかけるもの。私自身、歌に自分の思いを託したいと考えたこともあります。
でも、できれば1980年代、イギリスの有名なアーティストたちが集まって作った"BAND AID"というバンドの"Do They Know It's Christmas?"という曲のように、若い人にも知名度のある人たちが歌を作り音楽でメッセージを訴えかけてくれたらなと、思っていました。地雷という問題を解決するにはもう少し時間が必要です。あと80年という人もいれば、1000年という人もいます。いずれにしろ、若い人たちに事実を知ってもらわなければなりません。そのきっかけが音楽だったらと、考えていました。それが、こんなに早くに現実になるとは、感無量です。

サイトを始めたころは、日本は地雷廃絶に対してまだ腰がひけている状態でした。アメリカが地雷保持派だったため、それと同じ行動をとろうとしていました。
もちろん、その当時のマスコミでの取り上げられ方も、地雷は海岸線の長い日本の防衛には欠かせない兵器というものでした。
この流れをだんだんと変えていったのは、ロビー活動を行いつづけたJCBL難民を助ける会などのNGOのみなさんだと思います。そして、当時外務大臣だった故小渕氏が日本はオタワ条約に調印する方向で動くと表明、そこで日本の進む方向は決定付けられます。そして、オタワでの調印。
日本のたくさんのNGOが、そして個人で活動している人々の思いが流れを変えさせ、ついにはマスコミにもこうやって取り上げられるようになったのです。

実は、「天使になりたい」を作ろうと思ったきっかけは、カナダ人女性からの一通のメールでした。
彼女は私の英語のエッセイを読み、外国でも頑張ってねと、エールを送ってくれたのです。そのメールには彼女のURLが書かれてあり、アクセスしてみました。そこで、初めて"landmine"という英語に触れました。日本語の辞書をひき、それが「地雷」という意味だとわかってから、サーチエンジンで"landmine"という言葉を検索しました。何が自分の知らない間に起こっていたのかを知り、愕然としてから、日本語の「地雷」で検索してみたのです。ほとんど、ヒットがありませんでした。
今自分が見てきたことを、インターネットに日本語で載せたい、その一心で英語のサイトに写真の使用許可を求めるメールを出し、英語で書かれたサイトを印刷してまわり、英語で書かれた資料を買ったりしました。
準備には3ヶ月かかったでしょうか。

インターネット上にアップしたいと自分で決めた納期は、祖母の命日でした。

色んな思いが通じたのでしょうか、Yahoo! JAPANでは今日のオススメに入れていただけましたし、こちらから申し出てもいないのに、推奨サイトに選んでいただけたり。
ちょっぴり辛いこともありましたが、いつでも誰かに支えられてきたように思います。

あれから三年。
夫に昨夜、「自分が先駆者なのにって、悔しくない?」と聞かれました。
不思議と、そんな気持ちは湧いてきません。まずは、私は本当の意味で先駆者ではありません。もっと以前からこの問題に関心を寄せていた人が行動し、ICBLを作り、そして日本ではJCBLを作ったのですから。
私の気持ちの中には、悔しさは微塵もなく、感謝の気持ちで一杯なのです。このインターネットという世界の中で、地雷という問題について発信し続けることができ、そのおかげで色々な人々と出会うことができました。直接お会いした方も、メールだけでお話した方も、いつかどこかでお会いしましょうと約束した方も、私にとっては大切な方たち、大切な縁です。
なかには、拙い英語で質問をしたら、関連する資料を一式、無料で送付してくれたアメリカのサイトもありました。本来ならそこの資料は購入しなければならないのですが。それも、私が感動した一つの縁です。
私は発信することで、自分がこの世で何か一つのパーツになれたと感じています。大きな流れの一部分の役割を担っていると、そう感じられるのです。
こんな流れを作る一つの雨粒になれたことが、私にとってはとても貴重で嬉しいことなのです。

日本として何かをする、そんな意識ではなく、一つの地球という星に住んでいる仲間が困っているのなら、何かを手伝おう、そんな気持ちが今、一人一人の心に芽生えてきているのではないかと思います。
募金しかできないと思われるかもしれない、でも、その募金は地雷で苦しむ人にとっては、とても有難くて貴重なお金だと思うのです。

来月、四月三十日に番組が放送されます。
私はリアルタイムでは見られませんが、ぜひ、見てみようと思っています。

「絶対に変えられっこないさ。」
いいえ。そんなことは、ないと思います。魔法のようにすぐに変えられなくても、時間をかけて、ゆっくりと変えていくことができると思うのです。それだけ、人、一人一人の力は弱いようでいて、とても強いものなのですから。



       


2001/03/26




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